中高生向け湯之奥金山地学実習2023報告
今回の実習では、日本列島の形成過程において地質学的に大きな意味を持つ南部フォッサマグナの湯之奥金山を実習地として、プレートテクトニクス理論に基づく金山の形成過程と共に、このような自然条件を生かした産業遺跡である湯之奥金山の歴史について学びました。
1日目
実習の初めに、小俣先生より湯之奥金山が日本列島の中で地質学的にどのような位置付けにあるのかを3D地形図を見ながら確認します。
日本列島は太平洋プレート、フィリピン海プレート、北米プレート、ユーラシアプレートの境界部分にあたります。
太平洋プレートは北米プレートの下に沈み込んでおり、境界部分では日本海溝が形成されています。フィリピン海プレートはユーラシアプレートの下に沈み込んでおり、境界部分に南海トラフが形成されています。ユーラシアプレートと北米プレートの間には糸魚川―静岡構造線という大断層があり、プレートの境界部分はフォッサマグナと呼ばれます。湯の奥金山は糸魚川―静岡構造線の東側にあり、南部フォッサマグナと呼ばれる場所に存在します。
地形図での地質概要を確認してから、博物館前の下部川河川敷に降りて河原の岩石観察を行います。岩石は、堆積岩、火成岩、変成岩に大きく分かれることを確認します。
その後、河原に見られる、一通りの岩石を各自で集めます。
小雨の中で観察でした。
一生懸命岩石を集める参加者。
岩石を集めた後は答え合わせです。それぞれの岩石には形成までのそれぞれの地球の物語があります。
まずわかりやすいのが、深成岩です。
深成岩は白と黒っぽい色の配分で、白い方から花崗岩、閃緑岩、はんれい岩と分かれます。写真の岩石は閃緑岩です。
深成岩は火山活動に伴ってできます。火山を生み出すマグマが、溶岩として噴出せずに地中でゆっくりと冷え固ることで結晶が大きく成長し、このような特徴的な見た目になります。白い部分は石英や長石で、黒部分は雲母、角閃石、磁鉄鉱などです。
さて、下部川河川敷ではグリーンタフと呼ばれる凝灰岩が見られます。
グリーンタフは元々深海の火山活動でできた岩石中の鉱物が、海水と反応して緑色の鉱物に変わることで形成しました。グリーンタフの成因を考えると、グリーンタフの出るところには温泉や金属鉱山が伴いやすいという傾向があり、広域での金属鉱山探査の1つの指標となります。
砂岩
泥岩(ホルンフェルス)
陸の近くで地層が堆積すると粒子が粗めになり、深海など陸から離れた場所では粒子の細かい泥岩が堆積します。これら堆積した砂岩や泥岩が地殻変動でマグマの熱をうけたりすると、ここの泥岩のように黒光した硬い岩石となります。熱変成を受けた泥岩をホルンフェルスといい、さらに高温の変成時間が長いと岩石中に菫青石や紅柱石ができますが、今のところ下部川河川敷では観察できていません。(丹沢のホルンフェルスには菫青石がみられるので、気が向いた人は丹沢に行った時に観察してみてください。)
さて、岩石によっては火山の現象をより詳しく知ることができる岩石があります。
この岩石は一部は長石の結晶ができた安山岩に見えますが、一部は結晶も見えず凝灰岩のようにも見えます。この岩石ができた時を考えてみましょう。火山が噴火するときは溶岩と火砕流が流れ、液体状の溶岩が固まると安山岩のような火山岩となり、高温の小石や砂などでできた火砕流は冷え固まると結晶が見えないくらい小さい小石の集合体のような凝灰岩となります。火砕流と溶岩が別々ではなく、火山噴火時に混じり合って流れたことを示すのがこの岩石です。
溶岩部分は安山岩として固化し、火砕流部分が凝灰岩として固化したことがこの岩石の観察からわかります(安山岩火山砕屑岩)。
岩石の確認をしたところで、今度は観察用の砂採取を行います。
砂は元々地層中が風化し、岩石となって川によって運ばれます。運ばれるうちに他の岩石などとぶつかることで細かく砕けていき、砂となります。砂には岩石を構成していた鉱物が含まれるので、砂を見ることで、河川流域の地質について知ることができます。
砂採取ではそのままの砂を採取し、もう1つは比重が重い鉱物を集めるために椀かけを行いました。
椀かけの様子
サンプルが採れたよ。
ここで一旦記念撮影を行い、博物館に戻って休憩です。
休憩後に、加速キッチンの熊谷先生から自然放射線測定についての説明がありました。
放射線とは太陽などの恒星や銀河から宇宙線として地球に降り注いだものや、地球内部の岩石や大気中に含まれる放射性元素から生じるものがあります。
放射線は目に見えないので、検出器を用いて間接的に観測・測定します。今回はcosmicwatchという小型の宇宙線検出機を用いました。いろいろな場所で自然放射線を観測することで、宇宙線の到来頻度の変化や地質に含まれている放射線の種類の違いなどがわかります。今回の実習では、熊谷先生が移動中と実習中にこの、cosmicwatchで宇宙線や自然放射線の観測を行いました。
この後、河川で採取した砂の観察を行います。
まずは、河川敷で椀かけした砂を台代わりの画用紙に出します。
次に、ポータブル顕微鏡でピントを合わせてから、画用紙上に出した砂を見て、まず最初に石英を探してみます。典型的な石英はガラスと同じ元素でできており、ガラスと同じく無色透明です。ただし、白っぽい石英も多く含まれており、典型的な透明な石英を探すのに意外に苦戦。
最後に、観察した岩石と鉱物のでき方について、プレートテクトニクスの観点からおさらいしました。