中高生向け夏の地学実習2024

山梨県湯之奥金山遺跡

実施概要

講師

  • 千葉達朗 特別講師。赤色立体地形図開発者。アジア航測株式会社先端技術研究所フェロー
  • 林忠誉  加速キッチンメンター
  • 小松美鈴 甲斐黄金村・湯之奥金山博物館学芸員
  • 小俣珠乃 日本地球科学普及教育協会代表理事

1日目

今回は台風10号の影響で、当初2日目に予定されていた中山金山登山の計画が初日に変更になりました。集合した後、早速、中山金山登山を開始します。

中山金山見学は湯之奥金山博物館学芸員の小松先生による案内です。
途中で小松先生指導による熊よけの爆竹体験も行います。

赤色立体地形図で現在地確認。

2時間足らずかけて中山金山遺跡入り口の目印となる看板に辿り着きました。

さて、遺跡入り口の標高は1470mくらいです。
雲ができやすい高度のため、登ると雲の中に入り、あっという間に天気が下り坂になってきました。
小雨が降り始めたので、大急ぎで遺跡の見学をします。

中山金山ではこの場所に金を産出するための村があり、沢のある水の近くに人々の生活や生産活動の痕跡がある様子について小松先生から説明を受けました。

坑道付近で林先生が自然放射線の計測を行いました。

金山稼働時(戦国時代〜江戸時代)の石碑

雨が強くなる前に急いで坂を登り大名屋敷と呼ばれるテラスへ向かいます。

山の中に人の手で作られた平坦なテラスと道。

雨が降らなければ、今年はもう少し上にある採掘場所まで挑戦する予定だったのですが、次までのお預けになりました。
下山する前に一通り見学した遺跡の地形を見直しします。登ってきた道と見学した遺跡の場所を見ながら、結構急な斜面でできた山肌に平坦な地形があることが実感できたでしょうか?

山の上は雨が降っていましたが、降りると雨は降っていませんでした。

気象庁の観測データをみると、この日の11時の南部町(標高141m)の気象データは以下です。

気温 33.2度
湿度 66%
露点温度 26.1度(水蒸気が雨になる温度)

標高100m登ると温度は0.6度づつ低下するので、単純計算で標高900mの登山口の気温は28.6度程度です。
そこで、標高何メートルで水蒸気が結露する(雨が降り始める)かを計算するには以下のような一次方程式を作成することができます。

33.2-((x-141)/100)0.6=26.1

これを解くと、計算上はx=1,321mから雨が降り始める計算になります。
地形図では、第2休憩所あたりがこの標高にあたり、晴れと雨の境目になっていました。
微妙なずれはあるものの、だいたい気象理論に従った天候の変化であったようです。今後、ポータブルの温度・湿度計が手に入ったら、実習でも現地で温度と湿度を計測しながら雨の降る高度も計算してみようと思います。

2日目

この日は千葉先生の登場です。
まずは、日本列島全体の観点から赤色立体地形図を眺めます。
周辺の地形を理解してから身延山頂に行きます。

身延山は本当は雲がなければこのような景色が見えるはずだったのですが・・・

残念ながら景色が見えないため、赤色立体地形図で方角を合わせて再確認して、下山します。
山頂で地形が見れなかったので、途中の富士川を渡る橋から地形を観察しながら博物館に戻りました。

お昼ご飯を食べた後、河川敷実習を行います。
昨日行った中山金山に流れていた沢が、博物館前に流れるこの下部川に続いています。つまり、中山金山から出てきた砂金はこの場所に流れてくる可能性が十分にあります。下部川の他の支流にも金鉱床があるので、そこからも砂金が流れてきていると考えられます。

下部川に流れてくる岩石は金鉱床とその周辺の地層から流れたきた岩石なので、河原岩石を調べることで、金鉱床のできる地層はどんなものかを知ることができます。
千葉先生の指導を受けながら、河川敷に見られるさまざまな種類の岩石を探します。

岩石の観察方法として、色や質感をみつつ、メガネをかけながら岩石を叩いてみることで、硬さや、割れた面の観察をしてみます。

岩石観察のあとは、お待ちかねの椀かけ作業です。

椀かけ作業は砂金取りが有名ですが、水の中で椀を回すことで、比重の小さい鉱物を流し、比重の高い鉱物を椀の中に残すという比重選鉱という鉱物の選別法です。
この椀かけ作業でだいたい比重3以下の石英(2.7)や長石(2.6)は流され、3以上の輝石(3.3)、角閃石(3.0〜3.5)、かんらん石(3.2)、磁鉄鉱(5.2)、砂金(19.3)などが残りやすくなります。
今回は博物館ボランティアの方が砂金の入りやすい場所の砂をバケツに入れて持ってきてくれました。その砂を椀かけすると、、、なんと、どの人も砂金を取ることができました!

椀かけの後は実験室で砂の観察を行いました。
今回で湯之奥金山実習は3回目ですが、砂金が取れたのは初めてです。
実際に砂金が取れると喜びもひとしおです。

最後に砂金が取れるまでのこの地域のプレートテクトニクスに従った地学的な変遷について、再度おさらいしました。

湯之奥金山周辺地域は元々深海底の火山近くにありました。その後、陸化して再度火山活動があったときに湯之奥金山の金鉱脈ができました。この地域は年間1ミリ近い速度で隆起し、金鉱脈を含む凝灰岩地層は風化しやすいため、この周辺にある金鉱脈が地表に出ると雨風に削られて地層から剥がれ落ちて川で運ばれながらも比重の高い金は砂金となって川底に留まります。

いわば、この場所は、悠久の時間スケールでの地球による砂金工場のようになっているわけです。

今回は天気があまり良くなかったので、地形観察があまりできませんでしたが、砂金を採ることができて本当に良かったです。募集期間が短く参加3名でしたが、その分、教える方も1名1名に丁寧に対応することができて、とても中身の濃い実習ができた充実感を感じています。参加者全員が、まだ中学1年生なので、これからも折に触れて地学を学んでくれたら嬉しく思います。

参加者感想

  • 今回、本来やると思っていたものよりも深い内容や、登山の途中で聞いた物理学の話も学ぶことができ、学習よりも楽しみながらできました。
  • これまでは地学は1つの教科として捉えていたけれど、今回の実習を通して、自分で足を運び、そこにあった岩石などを観察するものなのだとわかりました。
  • 身延山山頂から地形観察ができなかったのは残念ですが、(特に砂金採集が)とても楽しかったです。次回は中山金山の大名屋敷より先に行きたいです。